男性器の異常
タマが陰嚢内に触れない
「停留精巣と遊走(移動)精巣」
【精巣】
以前は「睾丸(こうがん)」とよばれていましたが、今日では精巣と呼ぶのが一般的です。
精子を作るはたらき(造精機能)と、男性ホルモンを作るはたらきがあります。片側停留精巣ではほとんどの場合おりていない側の造精機能が障害されています。
【停留精巣とはどんな病気でしょうか?】
停留精巣は出生時に発見される男性性器の異常の中で最も頻度の高いものです。精巣はお子さんが、お母さんの子宮の中にいる段階では腎臓のそば(腹腔内)に位置しています。
胎児が成長すると共に、精巣はからだの中を下降して、陰嚢内に降りて来ます。精巣の下降が途中で止まってしまい、精巣が陰嚢内に降りていないものを停留精巣といいます。
【精巣が降りて来ない理由】
停留精巣では精子をつくる機能に障害があります。ただし片側が停留精巣であっても降りている側の精子形成はたいがい正常で、成人後ほとんど男性不妊症になりません。
陰嚢のしわはラジエーターのように低温環境を作っていますので、精巣が陰嚢内に位置していないと精子形成がしにくくなります。そのため精巣のおかれる環境を改善することにで造精機能障害を改善することを目的として治療をします。
【停留精巣の頻度】
年齢
頻度
未熟児 10%
通常の新生児 3%
6ヶ月児 0.8%
思春期 0.8%
出生時に発見された停留精巣の多くは6ヶ月までに自然に下降し、それ以降変化がありません。
6ヶ月時でも陰嚢内にない停留精巣はその時点で治療です。
【停留精巣を手術する理由】
1)患側での精子形成能の低下
手術で精巣を降ろすことで造精能が高まるという客観的証拠は実は得られていません。
ただ、2 歳以降に手術した症例ではあまり改善がなので、手術年齢は以前と比べて低年齢化してきています。
2)精巣腫瘍の合併
停留精巣には普通の精巣と比較して、約2-4 倍高い頻度で精巣癌が発生すると言われています。ただし、日本人では精巣癌そのものが約1 万人に一人程度と非常にまれですので、
精巣癌になる頻度は2500-5000 人に一人くらいで、驚くほど高いものではありません。
思春期前に停留精巣の手術をしておくことによって精巣癌の発症率は半分程度に低下します。また精巣が陰嚢内にあるので、早期発見が容易になります。精巣癌の治療成績は他の癌と比較すると進行癌であってもかなりよいですが、10-50 台の青壮年期に発症しますので早期発見して最小限の治療にとどめるにこしたことはありません。
精巣の萎縮が著しかったり腹腔内にある場合は、精巣を摘除することも一つの選択肢です。発育障害のつよい精巣は機能的に期待できず、発がんの可能性が高いからです。
3)心理的、外見的な理由
片側の場合に精巣を降ろす事に劇的なメリットはなくとも、健常な男の子の御両親の多くは手術を選択されます。これはコンプレックスのもとになる可能性が危惧されるからです。その意味で、物心がつく前に手術を済ませておく事は良いことですが、成人して両親から独立する時には幼時に停留精巣の手術をしたことを本人に伝えるべきです。
【遊走精巣(移動精巣)とは?】
遊走精巣はお風呂に入っていたり、指先でつまみ出すとは、陰嚢底まで降りることができるが、時によってはかなり上の方まで持ち上がっていることのある状態です。きちんとした診察が出来ていないとしばしば停留精巣と混同されます。思春期を迎えて、精巣が発育すると自然に陰嚢内に落ち着いてきますので、原則的には手術不要です。
ただし、最近になって遊走精巣の一部に、成長とともに逆に降りてこなくなるもの(上行精巣ascending testis)が存在することが指摘されており、注意が必要です。
【非触知精巣の場合】
三通りの場合が考えられます。
1)精巣がなくなってしまった(萎縮精巣)
新生児期に精巣が萎縮してしまったと考えられます
2)精巣がおなかの中にとどまっている場合(腹腔内精巣)
3) 精巣が最初からない(精巣無形成)