男性器の異常
タマの片方がはれた
「急性陰嚢症」
陰嚢(いんのう)内が痛む病気には、精巣捻転(せいそうねんてん)、精巣上体炎(せいそうじょうたいえん)(別称:副睾丸炎(ふくこうがんえん))、精巣垂(せいそうすい)や精巣上体垂(せいそうじょうたいすい)などの捻転、および精巣炎などがあります。これらはいずれも比較的急速に発症するために急性陰嚢症と呼ばれます。また、そけいヘルニア(脱腸)を陰嚢の症状とあやまる場合もときにあります。
精巣捻転は、精巣がそれにつながる精索(せいさく)を軸としてねじれて血管が締め付けられるため、精巣が壊死する病気です。思春期前後の青少年に多く、寝ているときに発症することが多いのが特徴です。激しい陰嚢部痛で始まり、次第に陰嚢内容が腫れてきます。吐き気や嘔吐(おうと)を伴うこともあり、症状が正確に伝えられない年少児では、「おなかが痛い」という訴えのために見落とされることがあります。6〜12時間以内に血液の流れを回復しないと精巣は壊死(えし)しますので、発症早期の診断治療が重要で医師や患者がこの疾患を念頭におくことが重要です。
診断はドップラー超音波検査という方法で精巣への血流の流れが低下していることを確認することです。下にのべる精巣上体炎や精巣垂あるいは精巣上体垂捻転などとの鑑別が必要ですが、診断が確実でない場合は緊急手術がすすめられます。
治療は、ねじれた精索を戻して血液の流れを回復させて精巣を陰嚢内に固定することで、緊急手術として行われます。時間が経過して精巣がすでに壊死に陥っている場合は、精巣を摘出します。残った健康な側の精巣も今後ねじれないように同時に固定する場合も多いです。
精巣上体炎(副睾丸炎)は、精巣の横にある精巣上体(副睾丸)に炎症がおこって腫れることです。「精巣が腫れている」という訴えの方も多いですが、精巣の横に硬いシコリが触れます。ドップラー超音波検査で、正常な精巣と血液の流れが増加している腫大した精巣上体が認められます。
成人では、尿道や前立腺の細菌感染が精管を伝わって、精巣上体まで及んだ時に発症します。痛みと発熱を伴い急激に発症することが多いのが特徴です。また、症状に乏しく精巣上体に痛みのないシコリを触れるときには、結核性のものもあります。治療は、抗菌薬の投与を感染が完全に治るまで行います。また、陰嚢内の痛みのないシコリは精巣の癌のことがありますので、放置せず泌尿器科に受診することが必要です。
小児でも精巣上体炎になることがあり、上に述べた精巣捻転との区別が非常に重要ですが、やはりドップラー超音波検査が役にたちます。小児の場合は成人のように尿の感染がみとめられない原因不明のものが多いですが、アレルギー性紫斑病(しはんびょう)という内科疾患や、先天性疾患が原因になっている場合もあります。
精巣垂捻転、精巣上体垂捻転は、精巣や精巣上体にある2、3mmの突起がねじれて痛みの原因となります。これらは精巣捻転とは違って手術の必要はありませんので、精巣捻転と見分けることはとても重要です。ドップラー超音波検査では、精巣や精巣上体のかたちと血液のめぐりは正常で、精巣や精巣上体に接して小さな突起物が描出される場合があります。
精巣炎は、流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん:いわゆる“おたふく風邪”)に伴って起こるものが代表的です。思春期以降の流行性耳下腺炎の約20%に合併し、耳下腺炎発症の3〜5日目に痛みを伴って精巣が腫れてきます。精子形成障害を起こすことがあります。
【注釈】
精巣上体:精巣の横につながっている構造物で、精巣でつくられた精子が精管に運ばれる途中に通過するところ
精索:精巣とお腹の中をつなぐ細長い構造物で、精子を運ぶ精管と血管を含む
精巣垂、精巣上体垂:精巣や精巣上体に付着している2、3mmの突起
壊死:体のなかで組織に血液が通わなくなり死ぬこと
ドップラー超音波検査:超音波検査は体の中を超音波を使用して画像にする方法で、ドップラーさらに血液の流れを見えるようにしたもの抗菌薬:細菌を殺す薬のことで、いわゆる抗生剤のこと